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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)3327号 判決

原告 松本武

右訴訟代理人弁護士 近藤与一

被告 長谷川清

右訴訟代理人弁護士 尾形再臨

主文

被告は、原告に対し、金十八万円及びこれに対する昭和三十年四月一日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

(争いのない事実)

一、原告は、大和不動産と称し、公認の土地建物の周旋を業とするものであること、被告は、原告から本件不動産並びに日産皮革所有にかかる土地及び建物の紹介を受けたこと、その後、本件不動産の所有権が木村から林亀五郎に移転したこと、被告は昭和三十年三月二十二日林亀五郎から本件不動産を代金四百万円で買い受けたこと、宅地建物取引業法による正規の周旋料が原告主張の数額であること及び被告は、昭和三十年三月三十日原告から周旋料の請求をうけたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(周旋委任契約の成立について)

二、前掲当事者間に争いのない事実と、成立に争いのない甲第一、第二号証並びに原告(第一、二回)及び被告の各本人尋問の結果を総合すると、被告は、昭和二十九年十月頃、原告が経営する大和不動産の店を訪れ、原告に対して、「猿若町を中心に約七十坪ほどの土地を探してもらいたい。もし更地がなければバラツクか建物があつてもかまわない。」と、土地及び建物の売買周旋を依頼し、原告はこれを承諾したことを認めうべく、他にこれを覆えすに足る明確な証拠はない。この事実によれば、被告と原告との間に、原告を受任者、被告を委任者として、約七十坪の土地及び建物の売買の周旋の委任契約が成立したものといわなければならない。

(委任の解除について)

三、被告は、本件不動産売買周旋の委任契約は、原告みずから周旋を拒絶して解除した旨抗争するが、これを認めるに足る明確な証拠はなく、かえつて、証人林亀五郎、同新井真作及び同毛塚益太郎の各証言並びに原告(第一、二回)及び被告の各本人尋問の結果(ただし、被告本人尋問の結果については、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、

(一)  原告は、被告から土地建物売買の周旋の依頼を受けたのち、日産皮革所有にかかる土地及び建物を紹介し、その売却を交渉したが、売買価額の点で折り合いがつかず、他に売却されたので原告は、本件不動産売買の周旋をすべく、被告及びその使用人井上忠三郎と同道して、本件不動産の所在地に案内し、これを被告に紹介したこと。

(二)  原告は、昭和二十九年十一月頃、被告に対し、本件不動産の所有権が木村から林亀五郎に移転したので、その間、本件不動産の売買周旋を断わり、猿若町にある不動産及び聖天町所在の不動産を案内して、それらの紹介をしたこと。

(三)  その後、本件不動産の所有者になつた林亀五郎は、昭和三十年一月初旬頃、土地建物取引業者である新井真作に対して、本件不動産の売買方を依頼し、右新井は、同業者である原告ら二、三軒の者に対して、本件不動産の売買の仲介を依頼したこと。

(四)  原告は、右新井真作から本件不動産売買の依頼を受けたので被告の事務所(当時は日本橋横山町所在。)を訪れ、本件不動産の買受けを勧めたが、被告は、原告に対し、「今、井上がいないが、井上が来たら、きみの方へやるから相談してくれ。」ということであつた。原告は、その後、井上忠三郎が原告の店に訪れて来たので、不動産の売買価額は、金四百万円であると話したところ、井上は、「一応社長(被告)によく相談するから、ちよつと待つてもらいたい。」といつて帰つたが、その後何らの返事がないので、原告は、数回にわたり電話で本件不動産の買受けを勧めたところ、最後に、三月十九日頃、被告は、原告に対して、「どうしても本件不動産の買受けはうまくない。」と電話で、本件不動産の売買契約を断つたこと。

(五)  その後、被告は、毛塚益太郎及び坂本らの仲介で林亀五郎から、原告をぬきにして、直接本件不動産を代金四百万円で買い受け、右毛塚及び坂本に金十万円を謝礼として支払つたことを認定しうべく、右認定にてい触する被告本人尋問の結果は、前掲証拠に比照して、たやすく信を措きがたく、他に右認定を左右すべき証拠はない。しかして、右事実によれば、被告は、本件不動産の売買周旋委任契約を受任者である原告の不利なる時期において解除したものであるということができる。

(むすび)

四、しかして、本件不動産の売買価額が金四百万円であることは前記のとおり当事者間に争いなく、したがつて、土地建物取引業者である原告がこの取引に関し収受し得べき媒介報酬額は金十八万円であることは、宅地建物取引業法及びこれに関する原告主張の東京都告示並びに計算上明白であるから、被告は本件不動産の委任契約を解除したことによつて、原告は、本来取得し得べかりし報酬額に相当する損害を蒙つたものと見るべきであるから、被告は原告に対し右金十八万円及びこれに対する被告が原告から媒介報酬額の請求を受けた日であること当事者間に争いがない昭和三十年三月三十日の後である同年四月一日から、その支払ずみに至るまで、商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あるものということができる。

よつて、原告の本訴請求は、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅正雄)

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